研究内容 (Summry)

発がんと細胞老化機構の解明(久郷)

染色体導入法によるがん抑制遺伝子の同定

 
 テロメレースは、がんに無限の増殖性すなわち不死化形質を与える酵素である。正常体細胞は, 増殖に伴い染色体末端のテロメアが短縮し, 最終的に細胞老化が誘導される。一方, がん細胞ではテロメアを合成伸張のはたらきをもつテロメレースの活性化により、分裂停止を回避し無限の増殖を可能にしている。ヒトの正常体細胞においては, ほとんどテロメレース活性が認められないが, がん細胞では80-90%ときわめて高い頻度で活性が確認されている。したがって、テロメレース抑制機構を理解することは、発がん機構の解明およびがんの無限増殖性を選択的に阻害する治療薬の開発に直接繋がるとして注目されてきた(Blasco MA et al. Nat Rev Genet 2005)。我々は, 染色体工学の手法を用い、PITX1(paired-like homeodomain1)がその本体であること, 皮膚がんであるメラノーマ細胞(悪性黒色腫)ではPITX1が消失するためテロメレースが発現することを突きとめ、PITX1を新規のがん抑制遺伝子として報告した(Qi DL et al. MCB 2011)。加えて、メラノーマにおいてmicroRNA-19bの発現が亢進、PITX1の発現抑制を介してテロメレースの発現制御に関与していることを明らかにした(Ohira et al. Scientific Reports. 2015)。現在は、さらに染色体工学の可能性を広げるために次世代シークエンサーとの技術融合によって新規がん抑制遺伝子の探索を行うプロジェクトを遂行している。 

  

 

刷り込み遺伝子LIT1の機能解析

 

 これまで我々は、微小核細胞融合法を用いた染色体導入より親起源の明らかなヒト染色体を1 本だけ保持するマウス細胞のヒト単一染色体ライブラリーを作製し、このライブラリーから11p15.5 領域において父性発現を呈する 新規刷り込み遺伝子としてnon-coding RNA LIT1 を同定しました。さらに、LIT1 プロモーター領域に存在するアレル特異的にメチル化を受けるCpGアイランド(DMR)を欠失させた研究による LIT1 遺伝子の機能消失は、がん抑制遺伝子として知られ、大腸がんにおいても発現異常が認められるp57KIP2 を含む周辺刷り込み遺伝子の発現異常を誘導させることを見出しました。これらの結果より、LIT1は周囲の刷り込み遺伝子の発現をクロマチンドメインレベルでシスに制御するインプリントセンターとして重要な機能をもつことを明らかにしました。


 さらに、Fluorescence in situ hybridization(FISH)法を応用して、国内外を通してはじめてLIT1 RNA 分子を可視化させることに成功し、細胞内における発現動態の解析を行いました。その結果、LIT1 の発現が確認された父方由来11 番染色体を一本保持するチャイニーズハムスター細胞株(CHO11P-8 細胞 株)において、核内にLIT1 RNA 分子のスポットを検出し、ほとんどの間期細胞核においてLIT1RNA 分子のシグナルが認められました。またDNA-FISH より、 LIT1RNA 分子は発現しているアレルのLIT1 DNA 領域近傍に位置していることも示されました。さらに、クロマチンファイバー上でRNA 分子を検出するFiber-RNA FISH解析によりクロマチン上に集積するLIT1 RNA の存在を明らかにしました。また、LIT1 の発現異常(LOI:ゲノム刷り込みの消失)が高頻度に大腸がんや食道がんで認められています。このようなことから、LIT1 RNA は細胞周期を通して安定にLIT1 DNA周辺領域 に局在し、XistRNA 同様なnon-coding RNAを介したクロマチン構造変化がドメインレベルの遺伝子発現制御に関与し、このLIT1 による制御機構の破綻が大腸がんを含む発がん過程に重要な役割を担っている可能性が示唆されています。近年、興味深いことに、がんを含む染色体起因疾患に機能性RNA が関与することが報告されています。
 

 現在、このLIT1 刷り込み遺伝子の詳細な機能解析を通して発がん機構の解明を目指しています。 機能性RNA の分子機構の理解は、未知の疾患や生命現象の理解に向けて大きく展開可能な先駆的な研究になりうることが期待されています。

 

創薬開発(香月)

ヒト化モデル動物を用いた創薬研究


 ヒトの遺伝子を実験動物の遺伝子と置き換えたいわゆる「ヒト化」動物は創薬研究を行う上で非常に重要なツールである。我々の開発した“人工染色体ベクター”によって、ダウン症候群モデル動物、筋ジストロフィーモデル動物、ヒト薬物代謝遺伝子ヒト化動物、抗体遺伝子ヒト化動物、など従来の技術では不可能であった巨大な遺伝子について、疾患モデル動物ならびにヒト化動物の作製とそれらを用いた遺伝子機能解析、そして創薬研究を行っている。

 

さらに詳細な内容は以下のリンクより

http://www.med.tottori-u.ac.jp/chromosome/558/13883.html


革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業へのリンク
http://www.i-biomed.jp/adopted-subject-b/sb02/


遺伝子医療(平塚)